東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)2号 判決
一 特許庁における本件審査、審判手続の経緯、本願実用新案の要旨および本件審決の理由の要旨についての請求の原因第一項および第二項の事実は、すべて当事者間に争いがない。
右争いのない事実と成立について争いのない甲第一号証(本願実用新案の明細書および図面)および同第二号証(引用にかかる実用新案公報)とによれば、(一)本願実用新案の要旨は、「従来の公知公用の戸において、その小桟をプラスチツク製にて製作してなる戸の構造」にあり(別紙図面参照)、その明細書中、考案の詳細なる説明の項には、従来のガラス戸や障子戸等の資材が木製であつて、その小桟の上に集積したほこりは、はたきなどでは容易に取り除きがたく、日時の経過するに従い、ほこりが固着してしまうので、水拭きを要するにいたるのが普通であり、これを度重ねると水拭きのあとが汚れとなる欠点があつたが、本願実用新案は、この欠点を取り除くため、親桟1とともに組み立てられた小桟2の部分をプラスチツク製としたものであること、プラスチツク製とするときは、木質製の場合と異なり、表面が滑らかで吸湿性が皆無であるから、小桟の上にほこりが集積しても、はたき等で直ちにこれを払い落すことができ、水拭きしてもすぐ乾燥し、これをたび重ねても小桟の表面に汚点を残すおそれがないし、しかも、製品が廉価であるとの効果を収める旨記載されていること、(二)一方、本件審決引用の刊行物に記載された「合成樹脂製戸枠用材」の実用新案は、本願実用新案の出願前の日である昭和三二年九月九日出願公告されたものであり、戸枠を合成樹脂(プラスチツク)製としたものの特定の構造にかかるものであること、その戸枠用材は、合成樹脂特有の優れた耐蝕性を有し、一般に戸枠が風雨にさらされる場合が多いため金属製あるいは木製戸枠において長期使用中外観が損われかつ次第に腐蝕される欠点があつたのを改良したものであり、これを押出機によつて成型することができる旨記載されていることが明らかである。
二 原告は、プラスチツク製とするときは、その表面が滑らかで吸湿性のない点に着眼して、このプラスチツクを戸の小桟に用いた本願実用新案は、プラスチツクの耐蝕性に着眼した引用例の戸枠とは技術思想を異にし、これから当業者のきわめて容易に考案しうるものではないと主張する。
しかしながら、プラスチツクといつても各様の性状をもつ多種多様のものがあることはいうまでもないところ、本願実用新案において用いられるプラスチツクは、ただ単に表面が滑らかで吸湿性がないという条件を具備しさえすれば、他はいかなる性状のものでもよいといいうべきものでないことは自明であり、その登録請求の範囲の項においてもひろくプラスチツクという以外に何らその限定がなされていないから、せいぜい、戸の小桟の表材として適切な性状のプラスチツクと解しうるに過ぎない。この場合何が適切かは必ずしも明らかでないばかりでなく、原告が強調するプラスチツクにおいて表面が滑らかで吸湿性のないものも従来からきわめて有り触れており、一方、戸の小桟に適宜な性状のプラスチツクを用いれば、ほこりの除去、水拭き等が幾分容易になりうるとしても、本願実用新案におけるように、従来公知公用の戸においてその小桟部分にただ単にプラスチツクを用いるというだけでは、戸枠用材に合成樹脂を用いることが引用例により本願実用新案出願前公知である以上、本願実用新案が戸におけるプラスチツクの新しい用い方としては、引用例と比較して特に考案力を要するほどの効果のある考案とは認められない。引用例の合成樹脂製戸枠用材が、一面で合成樹脂の耐蝕性に着目し従来の金属製あるいは木製の戸枠の風雨に腐蝕されやすい欠点を改良しようとするものであるとしても、これと本願実用新案とを対比して考えるのに、そのプラスチツクを用いる部分が戸枠か小桟かであつて、たがいに連接した戸の部分にかかるものであること、そこにプラスチツクを用いる場合、それが戸枠ないし小桟にいわゆる耐蝕性を付与するために用いられているのか、プラスチツクの表面が滑らかで吸湿性がないことに着目しほこり等の除去、水拭きの便を得るために用いられているのか、用い方として区別できない常態になることが明らかであることおよび引用例の戸枠用材を用いる戸が常に本願実用新案にかかる戸と別種のものに限られるとは前掲甲第一、二号証より認めえないことが明らかであることから、両者は、プラスチツクの用い方ないし原告のいわゆる自然力利用の技術思想として、別異なものではないとするのが相当である。
原告は、本願実用新案のプラスチツク製小桟が押出成型法により製造しうることにともなう効果についても主張するが、引用例の公報にも合成樹脂製戸枠用材の押出成型が示されており、この点において両者に特別の差異を見出しえないから、右主張も採用できない。
三 右のとおりである以上、本願実用新案をもつて引用例から当業者のきわめて容易に考案できる程度のものとした本件審決には、原告主張のような違法の点はなく、したがつて右違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がない。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
本願実用新案を実施した戸の全体正面図
<省略>